国・研究機関によるシステムの検討に貢献

顧客 : 東京大学様

概要

再エネ主電源時代の電力システム検討を支援

日本では、総発電量に占める再生可能エネルギーの比率を引き上げる再エネ主電源化が進められています。 再エネ主電源化が進むにつれて電力供給の安定性が低下することが懸念されます。 現在、国や研究機関、大学が中心となって、再エネ主電源化時代でも安定的に電力を供給できるシステムの検討が進められています。 構造計画研究所は大学や電力会社と共に将来の電力システム検討のための研究に参画し、国や研究機関の検討を支援しています。

ポイント1. 新しい電力システム検討のためのシミュレータ開発

安定でクリーンな電力システム検討のため、構造計画研究所は再エネ主電源時代の発電機運転計画を自動作成するシミュレータを開発しました。 シミュレーションにより、様々なシナリオにおける発電機などの電力設備の挙動をコンピュータ上で模擬することができます。 構造計画研究所が開発したシミュレータでは、200台の発電機それぞれの特性を考慮し、最も合理的な発電機運転計画を作成することができます。

ポイント2. シミュレーション結果を分析し電力システムの検討

構造計画研究所は、シミュレーション結果に基づいて将来の電力システム検討を支援しています。 様々なケースにおけるシミュレーション結果を定量的に評価し、各ケースの電力システムの有効性を分析しています。 シミュレーションを活用した研究チームの報告は、国や研究機関における将来の電力システムの検討に活用されています。

社会背景

再エネ主電源時代の到来

2021年現在、日本は二酸化炭素排出量を2030年に2013年比26%削減、2050年に実質ゼロとする目標を掲げています。 日本の二酸化炭素排出量のうち、約40%が発電などのエネルギー転換部門から排出されています。 二酸化炭素排出削減目標の達成には電源構成における再生可能エネルギー比率の大幅増加(再エネ主電源化)が必須となります。

再エネ主電源時代における電力安定供給の難しさ

電力システムの運用においては、電力の供給量と需要量を常に一致させる必要があります。 需給バランスが崩れてしまうと周波数や電圧が変動し、最悪の場合大規模停電を招きます。再生可能エネルギー電源を大量に導入すると、需給バランスを一致させることが難しくなります。 太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーには、変動性と不確実性という2つの特性があるためです。

変動性:天候という制御不能な要因によって発電量が変動すること
不確実性:発電量の予測に誤差がともなうこと

研究内容

新しい電力システムの検討

再エネ主電源時代においても電力を安定に供給するためには、新しい電力システムを構築する必要があります。 現在の電力システムでは、需要量や再生可能エネルギー発電量を予測し、各発電機の運用計画を策定・修正・運用しています。 再エネ主電源時代には、再生可能エネルギー電源の変動性や不確実性がシステム全体に与える影響が大きくなります。 再エネ主電源時代に備えて、再生可能エネルギー電源の変動性・不確実性を吸収できる電力システムを新たに作成する必要があります。 国や研究機関を中心に、将来どのような電力システムを構築するべきか検討が進められています。

様々なケースにおける発電機の運転計画を作成

新しい電力システムの検討にあたっては、将来の日本における発電機運転計画を様々なケースについて作成する必要があります。 様々なケースのもとで発電機運転計画を比較することによって、どのような電力システムが有効か分析することができます。 各ケースについて数百台の発電機の運転計画を作成するため、複雑に絡み合った多数の条件を同時に考慮する必要があります。 複雑な問題を速く正確に解くため、構造計画研究所の持つオペレーションズ・リサーチの知見が必要とされていました。

作成した運転計画を分析し、電力システムの検討に活用

構造計画研究所はシミュレータを提供するだけでなく、作成した発電機運転計画を定量的に分析し、大学や研究機関と共に新しい電力システムを検討しています。 再生可能エネルギーの変動性や不確実性を加味し、電力を安定供給できる発電計画を作成できているか詳細な評価を行っています。 構造計画研究所のオペレーションズ・リサーチに基づいた分析と、大学や電力会社が培ってきた電力系統に関する知見を融合することで、より良い電力システムを模索します。

ソリューション

発電機200台の最適な運転計画を自動作成するシミュレータを開発

多様なケースを検討するため、構造計画研究所は最適な発電機運転計画を自動作成するシミュレータを構築しました。 電力需要や再生可能エネルギー発電量予測を入力すると、発電機200台の運用計画を30分刻みで作成することができます。 

シミュレーションでは、主に下記のような項目を考慮しています。

  • 系統全体および地域ごとの電力需給バランス、送電線の容量、系統間の電力融通
  • 電力を安定して供給するために必要な調整力、慣性
  • 各発電機の最低出力と定格出力、燃料費、起動や停止に関わる費用や制約、そのほか個別の運用方針
  • 再生可能エネルギーの出力制御
  • 電気自動車やヒートポンプによる充電と放電
  • 複数発電機間の同時制御

オペレーションズ・リサーチの活用

発電機起動停止計画問題は、オペレーションズ・リサーチが数十年にわたって活用されている分野の一つです。 発電機200台の取りうる稼働停止パターンは膨大な数に上ります。 各発電機はそれぞれ異なる特性や運用規則を持っており、全ての条件を考慮した稼働停止計画を作成する必要があります。 発電機に加え、送電線をはじめとする系統設備にかかわる制約も満たさなければなりません。 一方で、発電費用はたった数%変動するだけでも日本経済に大きな影響を与えるため、発電費用は最小限に抑えなければなりません。 構造計画研究所はオペレーションズ・リサーチの手法を活用することで、多数の複雑な条件を考慮しながら最も低コストとなる運転計画を自動で作成するシミュレータを開発しました。

成果

将来の電力システムの構築に重要な要素が明らかに

シミュレーション結果の分析により、将来の電力システムの構築に重要な要素が明らかになりつつあります。 現在は下記のような項目について評価を進めています。

  • 再生可能エネルギー電源の変動性や不確実性をカバーするための他の発電機の運用方針
  • 天候によって再生可能エネルギー発電量が変動した際の送電線等の設備への負荷
  • 再エネ主電源化時代に電力、周波数、電圧等のうち最もクリティカルになる要素
  • 自然災害等による系統の急激な変動への耐性(慣性)
  • 予備力や調整力の確保による発電費用への影響
  • 電気自動車やヒートポンプ給湯器の有効活用によるメリットがあるか
  • 電力使用量を柔軟に制御するデマンドレスポンスの導入によるメリット

新しい電力システム検討の進展

構造計画研究所はシミュレーション結果の分析に基づき、新しい電力システムの検討を支援しています。 シミュレーションで明らかになった事柄は、将来の電力市場枠組みおよび各機器の仕様や運用方法の検討に活用されています。研究チームでは分析結果を反映させて電力システムを改善し、改善ケースについて再びシミュレーション評価を実施する、というサイクルを回すことで、より良い電力システムを模索しています。 日本の電力システムという現実世界で再現困難な大規模問題について様々なケースで比較検討するにあたり、シミュレーションが大きな力を発揮しています。

今後の展望

大学や研究機関と共に、構造計画研究所は今後も引き続き将来の電力システム構築に向けた研究に取り組んでいきます。

よりスマートな電力システム

より安定的かつ効率的に電力を供給するため、よりスマートなシステムが国や研究機関を中心に検討されています。 

  • スマートグリッド:電力の供給側だけでなく需要側も制御することで、全体の最適化を行う
  • 日本版コネクトアンドマネージ:送電線容量を最大限活用するために、小規模発電設備の接続条件を変更し遠隔で制御を行う  

スマートグリッドやコネクトアンドマネージの実現に向けては接続や制御の枠組みを適切に構築する必要があります。構造計画研究所では今後もシミュレーションを活用して様々な想定に基づいた検討を進めていきます。

新技術を柔軟に取り入れた電力システム

新技術を活用した設備の発展にあわせ、電力系統システムやその運用方法も見直す必要があります。 たとえば、再生可能エネルギー電源の短時間変動を補えるインバータや、遠隔制御できる蓄電池などの開発が進められています。 これらの新技術が実用化されれば、よりクリーンかつ安定した電力系統システムを構築できると期待されています。 構造計画研究所は、新技術を取り入れた電力システム運用のあり方についても、シミュレーションを活用して検討を進めていきます。

学会誌掲載

寄稿等

学会発表等

  • 齊藤朋世, 梅澤春樹, João Gari da Silva Fonseca Junior, 竹内知哉, 瀬川周平, 福留 潔, 宇田川佑介, 荻本和彦,『信頼度制約付き発電機起動停止計画による太陽光発電出力の予測誤差が与える影響の解析』, 電気学会 令和5年電力技術/電力系統技術 合同研究会 (2023).
  • 齊藤朋世, 梅澤春樹, 荻本和彦, João Gari da Silva Fonseca Junior, 瀬川周平, 宇田川佑介, 福留 潔, 『Security-Constrained Unit Commitmentを用いた太陽光発電出力の予測誤差が与える影響の解析』, 電気学会 令和5年電力・エネルギー部門大会 (2023).
  • 宇田川佑介, 荻本和彦, João Gari da Silva Fonseca Junior, 瀬川周平, 向井克, 齊藤朋世, 福留 潔, 『Security-Constrained Unit Commitmentを用いた太陽光発電出力の予測誤差が与える影響の予備解析』, 電気学会 令和4年電力・エネルギー部門大会 (2022).
  • 向井克, 宇田川佑介, 荻本 和彦, Joao Gari da Silva Fonseca Junior, 齊藤朋世, 東仁, 『太陽光発電出力予測を考慮した発電機起動停止計画モデルによるデマンドレスポンス技術の効果の分析』, 電気学会令和4年全国大会 (2022).
  • 宇田川佑介, 荻本和彦, Joao Gari da Silva Fonseca Junior, 瀬川周平, 向井克, 齊藤朋世, 福留潔, 『送電網混雑を考慮したSecurity Constrained Unit Commitmentを用いた予備解析』, 電気学会令和4年全国大会 (2022).
  • 宇田川佑介, 荻本和彦, João Gari da Silva Fonseca Junior, 向井克, 齊藤朋世, 東仁, 『太陽光発電出力予測誤差を考慮可能なUnit Commitmentを通じた8760時間解析』, 電気学会令和4年全国大会シンポジウム「カーボンニュートラル時代の電力需給解析」 (2022).
  • 宇田川佑介, 荻本和彦, ジョアン ガリダ シルバ フォンセカ ジュニア, 大関崇, 海崎光宏, 西辻裕紀, 請川克之, 福留 潔, 『電力システム運用における太陽光発電出力の予測技術の価値検証』, 産業技術総合研究所太陽光発電研究成果報告会2019 (2019).
  • Y. Udagawa, Y. Nishitsuji, K. Ogimoto, J. Fonseca, M. Umizaki, T. Ohzeki, F. Uno, K. Ukegawa, S. Fukutome, "Unit Commitment and Simulation Based on Day-ahead and Intraday PV Yield Forecasting in Japan", CIGRE International Conference AORC Technical Meeting 2019 (2019).
  • Y. Nishitsuji, Y. Udagawa, K. Ogimoto, T. Saito, K. Ukegawa, S. Fukutome, "The Effect of Continuously Renewed Wind Generation Forecast on Power System Operation", CIGRE International Conference AORC Technical Meeting 2019 (2019).
  • 宇田川佑介, 西辻裕紀, 荻本和彦, ジョアン ガリダ シルバ フォンセカ ジュニア, 海崎光宏, 大関崇, 宇野史睦, 請川克之, 大橋由季, 福留 潔, 『発電機起動停止計画モデルにおける電気自動車の導入』, 電気学会 平成31年全国大会 (2019).
  • 西辻裕紀, 宇田川佑介, 荻本和彦, 斉藤哲夫, 請川克之, 福留潔, 『風力発電予測の更新により計画を修正する需給運用シミュレータの開発』, 電気学会 平成31年全国大会 (2019).
  • Y. Udagawa, Y. Nishitsuji, K. Ogimoto, K. Ukegawa, S. Fukutome, "Japanese Power System Operation with Large Amounts of PV using Day-ahead and Intraday Unit Commitment", 17th E-Mobility/Solar Integration Workshop (2018).
  • 宇田川佑介, 西辻裕紀, 荻本和彦, Joao Gari da Silva Fonseca Junior, 海崎光宏, 大関崇, 宇野史睦, 請川克之, 福留潔, 『太陽光発電システム大量導入時における発電出力制御の必要性と気象予測技術の影響』, 気象学会2018年度秋季大会.
  • Yuki Nishitsuji, Yusuke Udagawa, Kazuhiko Ogimoto, Katsuyuki Ukegawa, Suguru Fukutome, "Development of Wind Ramp Forecasting Technology in the National R&D Project (in Japan): Evaluation of Developed Forecasts by Power System Operation Simulation", 17th Wind Integration Workshop (2018).
  • 西辻裕紀, 宇田川佑介, 荻本 和彦, 請川 克之, 福留 潔, 『風力発電出力予測の需給運用への影響分析と予測評価に関する検討』, 電気学会 平成30年度電力・エネルギー部門大会 (2018).
  • 長谷川拓人, 宇田川佑介, 杉浦哲平, 請川克之, 荻本和彦, 岩船由美子, 今中政輝, 『発送電・配電・需要統合解析の基礎的検討(4) 電気自動車を活用した需給調整力の検討』, 電気学会 平成30年度電力・エネルギー部門大会 (2018).
  • 宇田川佑介, 西辻裕紀, 荻本和彦, Joao Gari da Silva Fonseca Junior, 海崎光宏, 大関崇, 宇野史睦, 請川克之, 福留潔, 『太陽光発電出力短時間予測を考慮した高頻度発電機起動停止計画』, 電気学会 平成30年度電力・エネルギー部門大会 (2018).
  • Yuki Nishitsuji, Yusuke Udagawa, Kazuhiko Ogimoto, "Impact of Wind Power Ramp Forecasts on Japanese Power System Operations", Grand Renewable Energy 2018 International Conference and Exhibition (2018).
  • 宇田川佑介, 西辻裕紀, 請川克之, 荻本和彦, 『最適化モデルを用いた日本の将来の電力システムに対する一考察』, 第8回横幹連合コンファレンス (2017).
  • 宇田川佑介, 荻本和彦, ジョアン ガリ ダ シルバ フォンセカ ジュニア, 大竹秀明, 福留潔, 『電力系統における需給運用における発電量予測の使用方法』, 日本気象学会 2017年度秋季大会 (2017).
  • Yusuke Udagawa, Kazuhiko Ogimoto, Joao Gari da Silva Fonseca Junior, Hideaki Ohtake, Suguru Fukutome, "Impact of Photovoltaic Yield Forecasting on Future Power System Operations in Japan", 7th Solar Integration Workshop (2017).
  • Yusuke Udagawa, Kazuhiko Ogimoto, Joao Gari da Silva Fonseca Junior, Hideaki Ohtake, Suguru Fukutome, "Economic Impact of Photovoltaic Power Forecast Error on Power System Operation in Japan", IEEE PowerTech 2017 (2017).
  • 宇田川佑介, 西辻裕紀, 荻本和彦, Joao Gari da Silva Fonseca Junior, 請川克之, 福留潔, 『太陽光発電出力当日予測を用いた運用計画の改善』, 電気学会 平成29年電力・エネルギー部門大会 (2017).
  • 西辻裕紀, 『発電予測を利用した需給制御』, 日本太陽エネルギー学会 太陽光発電部会第21回セミナー (2017).
  • 宇田川佑介, 西辻裕紀, 荻本和彦, Fonseca Joao, 大竹秀明, 大関崇, 池上貴志, 福留潔, 『出力予測を考慮したユニットコミットメントによる 太陽光発電出力制御必要量の分析』, 電気学会 平成28年電力・エネルギー部門大会 (2016).
  • 宇田川佑介, 西辻裕紀, 荻本和彦, Fonseca Joao, 大関崇, 大竹秀明, 池上貴志, 福留潔, 『太陽光発電大量導入時における出力制御必要量の分析』, 電気学会 平成28年全国大会 (2016).

エネルギーのオペレーションズ・リサーチに関するお問い合わせ

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