弘前大学医学部附属病院薬剤部様事例 モンテカルロ・シミュレーションを用いた抗菌薬のPK/PD解析

PK/PD解析においては実務・研究を問わず、モンテカルロ・シミュレーションが盛んに活用されています

PK/PD解析の概要

薬物投与と効果の関係は、

  • 投与量と体内薬物濃度との関係をあらわす薬物動態(PK;pharmacokinetics)
  • 薬物濃度と効果との関係をあらわす薬力学(PD;pharmacodynamics)

の二つに分けて考えることができます。 この二つを統合し、用法・用量と効果の関係を予測するのがPK/PD解析です。

PK/PD解析は様々な薬物で適応されていますが、もっとも成功した分野の一つが抗菌薬です。 抗菌薬の種類によって、血中濃度‐時間曲線下面積(AUC;aera under the curve)と最小発育阻止濃度(MIC;mininum inhibitory concentration)の比、 あるいは、血中濃度がMICを超えている時間(time above MIC)が効果とよく相関することが知られています。 それぞれの代表的な薬物として、前者はニューキノロン系薬、後者はβラクタム系薬があります。 従って、抗菌薬の臨床効果を高めるためには、適切なPK/PDパラメータを指標に、用法・用量を設定すればよいことになります。 ここで臨床に即した有効率を予測するにはPKの個体差およびMICのばらつきを考慮する必要があり、 その具体的な方法としてモンテカルロ・シミュレーションが用いられております。

モデルのダウンロードはこちら(Excel形式)

コンピュータで乱数を発生させ、擬似的に試験を行うことをモンテカルロ・シミュレーションといいます。 母集団薬物動態解析の結果、AUCは正規分布に従い、集団平均および分散が分かっているものとします。 コンピュータの乱数発生機能を用いることにより、この母集団に属する患者に薬物を投与した場合のAUC分布を擬似的に得ることが可能となります。

モンテカルロ・シミュレーションについて詳しくはこちら(リンク)をご覧ください。

人における母集団薬物動態パラメータ

検討したい薬剤の使用対象となる患者集団における母集団薬物動態情報を利用します。 今回の例題ではAUCは対数正規分布で解析を行っております。

床分離株のMIC分布

今回の例題ではカスタム分布(Crystal Ball の機能)を使用し、解析を行っております。

効果と相関するPK/PDパラメータの種類および目標値

今回の例題に使用しているニューキノロン系薬であるレボフロキサシン(以下、LVFX)のグラム陽性菌に対する効果はAUC/MIC比を30以上に設定することで、 良好な結果が得られると報告されております。

例題に使用しているLVFXの肺炎球菌に対する効果を例にとり説明します。

手順

  1. 患者での母集団薬物動態パラメータを用いて10,000例の血中濃度推移データを発生させます。
  2. 肺炎球菌に対するLVFXのMIC分布データより10,000例分のMICを発生させます。
  3. 10,000例分ずつ得られたAUCおよびMIC値を用いてAUC/MIC比を計算し、10,000例のAUC/MIC比の分布が得られることになります。
  4. 今回の例題では、AUC/MIC比が30以上で効果が期待できるということになるので、AUC/MIC比が30以上となる確率が有効率の予測となります。 例えば8,000例のAUC/MIC比が30以上になれば有効率は80%となります。

以上が今回実施した手順となります。

サンプルファイルでは、①LVFX1回100mg、1日3回投与での有効率予測 ②LVFX1回200mg、1日2回投与へ増量し有効率を予測。と条件を変えて各々の有効率を予測しております。モンテカルロ・シミュレーションを用いることにより検討したい薬剤での様々な用法・用量や条件における各々の有効率を検討することが可能となり、 より最適な用法・用量の設定が臨床試験を行うことなく検討することが可能となります。

  • 笠井英史, 谷川原祐介, モンテカルロ・シミュレーションを利用した抗菌薬の有効率推定  月刊薬事, 46, 27-31(2004)
  • 母集団薬物動態パラメータとモンテカルロ・シミュレーションで何ができるか 化学療法の領域 Vol.20 No.12,2004 P26~30

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